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腸と脳の健康の話と、読書会のお知らせ

新型コロナ治療薬の承認について思うこと

 次はサル痘*1だと言われていますが、今の時点での新型コロナ治療薬について、私の考えをまとめておきます。

 

 新型コロナの流行初期から、日本国内でも「アビガン」を始め、複数の薬剤が治療に有効というニュースがありましたよね。2020年のことです。まだ安倍さんが首相だった頃で、当時、安倍さんはコロナ治療薬としてアビガンの早期承認を目指すと話していました。


 ところが、アビガンの申請は行われましたが、効果がはっきりしないということで、承認は見送られました。効果を否定されたのではなく、継続して認可について審議することになり、製薬企業側は臨床研究や再度の治験を行いながら、認可に向けてずっと動いていたわけです。
 ですが、コロナは変異が激しく、また重症患者の数も減りました。

 特にオミクロン株では重症化するリスク自体が減り、治験の対象となる患者を十分集められないという理由で、今年3月末、アビガンのコロナ治療薬としての治験が打ち切りとなりました。

 

 2020年に、当時の首相が5月内の承認を目指すと公に言っていたにも関わらず(その後、「年内に」と修正された記憶があります)、それから2年も引き延ばされ、結局、承認には至りませんでした。それも、「効果がない」という理由でなく、「治験に組み入れる患者数が集まらない」という理由です。


 しかし臨床現場ではアビガンは適応外処方(医師の判断と患者の同意があれば、現実的には可能です)で使われていました。

 そして使用した医師を信じるなら、治療中の悪化や死亡者も抑えられていたわけですから、臨床的に効果が認められる薬剤だったと私は判断しています。

 

 アビガン以外にも国内の臨床現場から効果があると声が上がっていた薬剤は幾つかありましたが、未だに一つも承認されていません。承認されているコロナ治療薬は、メルク社の「モルヌピラビル」と、ファイザー社の「パキロビッド」。海外の製薬会社の薬だけです。

 つい最近も、国内製のコロナ治療薬の承認が見送られましたよね。塩野義製薬の「ゾコーバ」です。これもアビガンと同じで、継続審議となっています。

 

 誤解しないでほしいのですが、私はアビガンやゾコーバを承認しろと言っているわけではありません。
 どちらの薬も妊婦さんや妊娠可能性のある女性*2には使用しない方が望ましい薬だと考えていますし、審査をパスできるだけの「明確な効果」をデータとして示せていないのも事実でしょう。


 薬剤を承認申請する際には、PMDAが申請する企業や研究者に助言指導するシステムがあります。PMDAは、厚労省所管の独立法人です。
 独立法人ではありますが、設立当初の理事長は元厚生労働省医薬局長であり、また幹部級の職員は8割が現役行政官が占めていたという資料があります。要するに、厚労省天下り先の一つというか、下部組織のようなものだと私は考えています。

 

 (なお、現在のPMDA理事長は元国立がん研究センターの副センター長。内閣官房医療イノベーション推進室に経験もおありです。職員の情報は、個人情報保護の観点からか、以前より開示されていません)

 

 そのPMDAが指導した内容で企業側は薬剤の承認申請を行います。承認が難しい内容であるとPMDA側が判断した場合、足りないデータや知見の補填、解析内容についての指摘などが、かなり厳しく行われると聞いています。
 企業側は、そのように指導され、修正したデータをそろえて、申請を行うわけです。
 アビガン、ゾコーバも同じようにPMDAとやりとりを繰り返し、それから申請を行ったと思うのですが、申請データの甘さはPMDAから指摘されなかったのでしょうか?

 

 また、海外の治療薬、モルヌピラビルとパキロビッドは、二つとも早々に特例承認されましたが、モルヌピラビルはアナフィラキシーの恐れがあり、パキロビッドには高血圧薬や脂質異常治療薬、抗精神薬、抗不安薬、抗菌薬など、併用禁止薬が30種類もあります。モルヌピラビルにアナフィラキシーの恐れがあることは、承認後に認められました。
 この2剤とも、安全性という面で疑問があるのではないかと疑っています。特にパキロビッドは、高齢者や持病のある方には処方しにくい薬です。無理に特例承認をする必要があったのでしょうか?

 

 薬の特例承認、早期承認には、実際に患者さんに使われた後になってから危険性が判明するという、大きなリスクがついてきます。
 十分な治験期間を設けていない以上、これは当り前のことです。もちろん、政府・厚労省側は十分に考えて承認しなくてはいけませんが、それを使う医療者側、また患者側も、この点を十分知っておかなければなりません。


 薬や治療の話は難解なことも多いのですが、自分や家族の命と健康に直接かかわること。一人でも多くの人に、後悔のない判断をしてほしいと思います。

*1:サル痘でまた新しいワクチンを打つんでしょうか?

*2:ということは、もしかしたら男性にも