新型コロナ2類から5類へ:「問題の本質」とは?
2類相当から5類へ
政府がやっと新型コロナを2類相当から5類へ引き下げる方針で動き始めたようですね。
これについて、『新型コロナウイルスの真実』や『コロナと生きる』等の著者である、神戸大学の岩田健太郎教授が、医療系媒体などで幾つかコラムを書いています。
その中で、最も踏み込んだ内容と思われるのがこちらの記事。一部引用して紹介します。
岩田教授のコラム
コロナ「2類→5類」なんてどうでもよい
神戸大学大学院感染治療学分野教授 岩田健太郎
感染者の多くは自宅やホテルで療養しており、多くの一般医療機関はコロナの患者を診療している。「2類」とは名ばかりの「ニセ2類」なのが現状だ。
高額なコロナの治療薬に配慮したのか、報道によれば「5類」にしても当面は公費負担が続くのだそうだ。屋内でのマスク着用も「原則不要」だそうだが、クラスターを起こされては困る人たちはマスクを着用し続け、させ続けることだろう。多くの医療機関は現在同様、「うちではコロナは診られません」と診療を断るだろう。
-中略-
つまり、「5類」といっても、あちらもこちらもなし崩しの「ニセ5類」になるのではないか。
本質の問題とはこうだ。「インフル並み」の感染症に移行される新型コロナを診療するということは、前提としてインフルエンザもまっとうに診療できるということだ。これまで多くの開業医のクリニックも、病院も、インフルへの感染対策を全然しないままに、ぼんやりとインフル診療をしていたのだ。ちゃんとインフル診療ができていれば、そのままコロナの診療もできていたはずなのだ。
感染対策という観点からも人権という観点からも、もはや「4人部屋」で入院患者を診る時代ではない。どんな感染患者がやってきても「うちには病室がありません」と言わなくて済むような診療環境を整備するのが本質だ。今後、病院は「全個室」を目指すべきだ。
-中略-
アウトカムから逆算した届出制度をつくり、テクノロジーでそれを自動化するのが本質だ。届出の自動化やデータの自動解析、ワクチン情報などとの自動突合、それらを可能にする法整備も喫緊の課題だ。
疑問点
このコラムの前半部分、救急車を呼ぶくだり(元記事参照のこと)は本当かどうか判断しかねるのですが、おおむね賛同出来ます。
しかし後半、「本質の問題とはこうだ」と書かれた以降の部分に大きな疑問点があります。
「インフル並み」の感染症に移行される新型コロナを診療するということは、前提としてインフルエンザもまっとうに診療できるということだ。
これは、5類に引き下げられた後の新型コロナの診療について言っている部分ですよね。
ところが、それに続く文章がこちら。
ちゃんとインフル診療ができていれば、そのままコロナの診療もできていたはずなのだ。
「コロナの診療もできていたはず」と、過去形で書かれています。
つまりここで言っているのは、今後の「5類に引き下げられてからのコロナ診療」ではなく、過去~現時点の、「2類相当」とされているコロナの診療のことですね。
ちゃんとしたインフル診療ができていれば、今までのコロナ診療も、受け入れを断る病院が問題なくることもなくしっかり診療でできていたはずだ、という主張です。
岩田教授の言う「問題の本質」は、インフルエンザなどの感染症をしっかり診療できる体制になっていなかったことだと読み取れるわけです。
個人病院では無理
実際、岩田教授はこのように書かれています。
どんな感染患者がやってきても「うちには病室がありません」と言わなくて済むような診療環境を整備するのが本質だ。
どんな感染患者がやってきても診療できる環境を整備するのは、現実的に個人病院、クリニックでは不可能ですよね。
コロナでも赤痢でもエボラ出血熱でもしっかり診療できる病院となれば、一般外来と発熱外来がしっかり区分けされ、医療スタッフの導線や空調に至るまで、しっかり計算して作られた設備でなければなりません。
文面通りに受け取れば、岩田教授は、個人病院は不要、少なくとも感染症対応病院としては不要という考えなのかもしれません。
しかし、「風邪かな、それともインフルかな?」というときに患者が最初にかかるのは、地域の個人病院です。風邪かもしれないときに近くの病院に行けないとなったら、患者としては、かなり不便ではないでしょうか。
混乱した時系列から導き出された結論
しかし、今後のこと、つまり新型コロナがインフルエンザと同等の5類扱いになるという未来の条件を出してきて、過去~現在のコロナ診療が「できていたはず」と結論付けた形で書かれているのは、時系列が混乱しており、筋が通っていません。
インフルエンザは5類の感染症です。コラム上のこのパラグラフの論旨は、5類のインフル診療がちゃんとできるなら、2類相当の新型コロナの診療ができていたはずだというものですが、5類の感染症と2類相当の感染症を同列に並べるのは、医療者として問題があります。
もちろん、「うちでは診られない」とコロナ診療を断る病院が多いことは社会的に大きな問題です。断らずにすますためには、感染症をしっかり診療できる態勢を作らなければならないという意見には同感です。
今後も新しい感染症はと出てくることが考えられますし、コロナのようなパンデミックがないとも限りません。それに対応できる、しっかりとした感染症診療の態勢をとれる病院が、少なくとも全国各地の要所に1つ以上は必要でしょう。
病院は全個室を目指すべき?
岩田教授はコロナやインフルをしっかり診療できるように、病院は「診療環境を整えるのが急務」とし、「全個室をめざすべきだ」と言っています。
しかし入院病棟が全て個室になったところで、コロナ感染がゼロになるとは思えません。
しかも今現在、自宅やホテルで療養できている病気なのです。自宅療養時の本人や家族の負担が大きいことは事実ですが、既にインフルエンザ以下の死亡率しかない感染症に対して、そこまでする必要があるのでしょうか?
岩田教授には、現在の病院はインフルエンザの診療もしっかりできていないという認識があるようです。
確かに、個人病院など発熱外来を置かない病院が新型インフルエンザの患者の診察拒否をした事例が一時期問題になりました。しかし多くの病院では入院措置以前に、来院時の診療で他の患者と何かしらの接触をする可能性が高いのです。
まさか「感染症疑いの来院患者の診察は診察室でなく個室でやれ」というわけではないと思うのですが、この点、岩田教授がどのように考えているのか疑問です。
病院側と患者側の負担
それに病棟を全個室の形に改修するとなれば、病院側の負担も相当なものでしょう。従来、病院はどこも赤字スレスレの経営状態が恒常的に続いていました。
コロナ助成金のおかげで2020年からは大幅黒字となっていますが、その分を改修にまわせばいいということでしょうか。
「全個室」は感染症を恐れる患者や、それ以外のプライバシーを求める患者に訴求力があります。医師や看護師の導線が問題になりますが、投資としては良い使い道かもしれません。
しかし、患者の側はどうでしょうか。
もしも長期の入院となった場合、個室に長時間一人でいることで、精神的に不安定になる患者も出てくるのではないでしょうか? そうなれば、精神面のケアという問題が生じてきます。
病院には交流スペースに使える談話室がありますが、病状や体調によっては、談話室の利用もできる患者とできない患者がいるわけです。その上、多くの患者が談話室を利用するとなれば、感染症のための「全個室」の意味自体がなくなります。
そうなると、感染症対策のための「全個室」はあまり意味がないと思われます。改修するとしても「全個室」ではなく、個室の数を増やす程度で十分でしょう。
公費負担にならないか?
もう一つ懸念しているのは、「全個室」や「個室増」のための改修工事費用を、感染症対策として公費で賄うという話にならないか、ということです。
政府の対応を見ていると、コロナ関連費用として計上される可能性もあり得そうに思われます。そうなれば、また病院に補助金が出るわけです。
病院側は、恐らく今までの黒字分と合わせて病院施設を大規模に新築・改築できることになります。病院側にとっては非常に魅力的な話でしょう。
2021年ではコロナ対策の年間費用が約77兆円(東日本大震災の復興費用10年間の総額約32兆円の倍以上)、コロナ経済対策の総額が約293兆円。そしてコロナ対策の予備費17兆円のうち、9割が使途不明と言われています。補助金ビジネスとも言われていますね。
この莫大な金額に比べれば、全国の病院を改修すると言っても、せいぜい関連費用の何パーセントかで済むのかもしれません。
しかし現在、新型コロナウイルスはかなり弱毒化しています。ほとんどは無発症者であり、もし発症しても、重症化する人はほとんどいなくなっています。人数で見ると、重症化数2000人を超えたピーク時(2021年9月)の1/3程度です。
感染者数が激増しているのに重症化数が減っているのですから、毒性はかなり弱くなっていることがわかります。
腰の重い現政府が2類相当外すことを検討しているように、既に新型コロナは、それほど恐ろしい感染症ではなくなっているのです。
増税の理由に使われる?
そんな毒性の低くなったコロナのために、またもや公費がじゃぶじゃぶと使われるのではないか、というのが私の懸念です。
病院も社会インフラの一つですから公費が入るのはいいとしても、恐らく政府(財務省)は、巨額に膨れ上がったコロナ関連費用を賄うために増税しなければならない、と言い出すことが考えられます。
恐らく、国民の多くもコロナで増税は仕方ないと考えているかもしれません。
しかし増税の必要はありません*1し、現状の日本は増税をすればするほど経済が壊滅状態になっていきます。
増税時に政府やメディアが言うスローガンは「子や孫の代に借金を残すな」でしたが、いま増税することで、子や孫の代に壊滅した日本経済を残すことになるのです。
岩田教授のコラムから少し飛躍した感もありますが、コロナ対策に関連することの中で、これが非常に大きく懸念される点の一つです。
*1:別途説明する予定です